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  • 2022年04月08日健康栄養

    禁煙するヒント「禁煙は伝染する」

    禁煙するヒント「禁煙は伝染する」

    禁煙

    執筆者:天野方一(医師)

     

    世界では、男性の25%、女性の5%が喫煙しており、年間640万人が喫煙のために死亡しているというショッキングな報告があります。

     

    死因別にみると、心臓や血管の疾患による死亡の41%、悪性新生物(癌)による死亡の28%、呼吸器疾患による死亡の21%が、喫煙によるものだったとされています。

     

    つまり、喫煙者が減ることで、心臓や血管に疾患による死亡が約4割、悪性新生物(癌)による死亡が約3割、呼吸器疾患による死亡が約2割減少し、年間640万人の死亡が回避できると期待されるわけです
    日本人では、男性1,530万人・女性490万人が喫煙者であると報告されています。この数は、世界7位、高所得国の中では米国に次いで2位です

     

    具体的な喫煙の健康へのリスク

    高血圧

    虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)

    脳血管障害(脳梗塞、脳出血)

    慢性腎臓病

    慢性閉そく性肺疾患(気管支や肺に障害がおきて呼吸がしにくくなる肺の「生活習慣病」。以前は「肺気腫」と「慢性気管支炎」に分けられていた)

    各種癌(食道、咽頭、肺、大腸など)

     

    意外と知られてない、他の疾患や精神状態への影響

    1,坐骨神経痛

    44万3,199例を対象としたメタ解析を紹介します。メタ解析とは、複数の研究をまとめ、再度解析したもので、最も信用できる研究とされます。

     

    この研究では、坐骨神経痛になるリスクは、非喫煙者に対し、喫煙者は約60%(オッズ比1.64〔95%CI:1.24-2.16〕)、元喫煙者は約15%(オッズ比1.15〔95%CI: 1.09-1.68〕)高くなっていることがわかっています2

     

    2,ポジティブな感情

    喫煙者を対象とした、喫煙を継続している時や禁煙した後の精神的な健康状態に関する26の研究をまとめた報告があります。ここでは、禁煙した人は、喫煙を継続している人に比べて、ポジティブな感情が高まったこと、不安・うつ症状・ストレスといったネガティブな感情が軽減されたことが確認されました。

     

    喫煙は、一時的には前向きになれるかもしれませんが、長期的にはポジティブな感情を生み出さない可能性があります

     

    禁煙へのヒント

    「わかっていてもやめられない」。禁煙は本当に難しいことです。

     

    ファイザー株式会社が実施している「ニコチン依存度チェック」の回答者に対する追跡調査(調査参加者7042人)では、1年間で禁煙に挑戦した人のうち、7割が失敗に終わっていたことがわかりました。さらに、禁煙に失敗した人のうち、約半数が1週間以内に挫折していました。

     

    ここで、禁煙へのヒントを紹介しようと思います。

    それは「禁煙は伝染する」ということです。

    世界で最も信頼されている雑誌の1つ、The New England Journal of Medicineに掲載された、周囲の喫煙状況がその人の喫煙・禁煙にどう影響するかについての研究報告があります。

     

    この、12,067人を対象とした研究(観察期間は1971年から2003年)によると、研究参加者の配偶者が禁煙した場合、本人が喫煙し続ける可能性が67%(95%CI: 59-73)も減少していたことが示されました。友人が禁煙した場合では36%(95%CI: 12-55)、同僚では34%(95%CI: 5-56)、兄弟では25%(95%CI: 14-35)、本人が喫煙し続ける可能性が減少したことがわかりました。

     

    我々の行動は他者から影響されており、その人との関係が近ければ近いほど、より大きな影響を受けています。禁煙を始めたい人は、まずは喫煙者が多い環境から抜けることが第一歩になるかもしれません。

     

    また、バレニクリン(商品名:チャンピックス)という禁煙をサポートする薬が保険適用になっていますので、禁煙外来のある病院/クリニックに相談してみるのもいいでしょう。

     

    執筆者:天野方一

    方一先生

    2010年に埼玉医科大学卒業後、都内の大学付属病院で初期研修を終了し、腎臓病学や高血圧学の臨床や研究に従事し、抗加齢医学専門医や腎臓内科専門医等の資格を取得。

     

    予防医学やアンチエイジングの重要性を感じ、2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、「食生活や生活習慣等など日常生活を改善することで、身体だけでなく心もハッピーに」をモットーに、予防医学やアンチエイジングに関する研究を行っている。

     

    2018年秋からハーバード大学公衆衛生大学院に留学し、最先端のアンチエイジング及び、?The relationship between health and happiness(健康と幸福の関係性)」?について研究。

     

    資格:抗加齢医学専門医、腎臓内科専門医、内科学会認定医、日本医師会認定産業医

    公衆衛生修士号(Master of Public Health、MPH

     

     

    参考文献

    1. Global Burden of Disease Study 2015
    2. The Effect of Smoking on the Risk of Sciatica: A Meta-analysis. Am J Med. 2016 Jan;129(1):64-73.e20.
    3. Change in mental health after smoking cessation: systematic review and meta-analysis. BMJ. 2014 Feb 13;348:g1151
    4. The collective dynamics of smoking in a large social network. N Engl J Med. 2008 May 22;358(21):2249-58.
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