2018年11月26日
執筆者:天野方一(医師)
ここ数年でよく見かける、3か月で劇的に体つきが変わったCM。最近では食事制限だけで痩せるよりも、筋トレも一緒に行って引き締まった体作りを目指す人が増えてきましたね。その影響もあってか、スーパーやコンビニなどでもプロテインバーやドリンクを見かけます。
今回のコラムではプロテイン=タンパク質についてご説明します。
そもそもタンパク質とは?
タンパク質は、私たちの体の筋肉・骨・皮膚、その他にも様々な組織を構成しており、タンパク質を摂取することは、私たちの体の健康にとって非常に大事なことです。また、食べ物を消化吸収したり、体の治癒力を左右する酵素や酸素を運搬するヘモグロビンもタンパク質によってできています。
全米医学アカデミー(1970年に設立された独立非営利の学術機関で、研究会開催や専門雑誌の発行などを通し、健康や医療に関する情報を発信している)によると、私たちのタンパク質の摂取目標は、体重1㎏あたり0.8g以上が推奨されています。
(摂取目安)
例1:体重60Kgの人⇒タンパク質の摂取は1日あたり50g以上必要
例2:体重80Kgの人⇒タンパク質の摂取は1日あたり65g以上必要
具体的な食事をイメージしてみると、たとえば先ほど例2(体重80㎏の人)で1日あたり65gのタンパク質を必要とする方の場合は、
- 丼ぶり一杯分のごはん:約7.5g
- 脂身なしの牛モモ肉100g(5切れ程度):約19.5g
- 紅鮭70g(1切れ程度):約15.8g
- 納豆1パック:約12.4g
- 牛乳コップ2杯:約13.2g
これで合計68.4gとなり目標クリアです。
一方で、高齢者は、加齢によるタンパク質の吸収率の低下や筋肉合成能の低下を少しでも阻止するため、こちらの推奨量よりも多い推奨量が規定されていて、筋肉量の維持が目標とされています。日本サルコペニア・フレイル学会、日本老年医学会、国立長寿医療研究センターによる「サルコぺニア診療ガイドライン 2017」では、高齢者は、1日のタンパク質摂取目標は、体重1kgあたり1.0g以上とされており、さらに慢性疾患のある高齢者では体重1kgあたり1.2~1.5gとされています。
なお、タンパク質摂取にあたっては知っておきたいことが3つあります。
- タンパク質の摂取不足は糖質の摂取過剰につながる
- タンパク質の摂取量は年々低下している
- タンパク質の摂取は量だけでなく質に注意する必要がある
具体的にみてみましょう。
①タンパク質の摂取不足は糖質の摂取過剰につながる
糖質の過剰摂取は肥満や心疾患などの様々な疾患のリスクにつながります。例えば、約8.3万人の女性を対象とした研究では、低糖質食(糖質の割合が低い分、野菜性たんぱく質や脂質を多く含む食事)を摂った人は、高糖質食(低脂質の食事)を摂った人よりも、心疾患(心筋梗塞や狭心症)のリスクが30%、2型糖尿病のリスクが20%減ったことがわかりました1,2。他にも多くの研究で糖質過剰は疾患のリスクが大きいという結果が報告されています。
*糖質とは炭水化物から食物繊維をひいたもので、真っ先にエネルギーになるもの。短時間で集中力を必要とするスポーツの時や仕事や勉強でも、補給することで即効パフォーマンスを発揮します。ただ、そんなパフォーマンスの必要性がない時に摂取しすぎるのは逆効果なのです。
②タンパク質の摂取量は年々低下している。
近年、タンパク質・糖質制限ダイエットなどが流行り、日本人のタンパク質の摂取量が年々減ってきています。現在、摂取量平均値は、推奨される最低量はクリアしていますが、摂取するべき量すら摂れていない人も増えてきているのです。タンパク質の適量摂取は生命活動において必須ですが、それが年々低下していることを念頭においたうえで、世界でも注目される健康寿命の高い日本人の健康を今後も維持していくためには、タンパク質の摂取量は積極的に意識することが重要です。
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③タンパク質の摂取は量だけでなく質に注意する必要がある
これは全ての栄養素の摂取について言えることですが、私たちは、食事の際ついつい推奨量の数値のみに注目しがちです。でも、必要量はもちろん、どういった食物から摂取したのかという“質”の部分が実は重要なのです。例えば、具体的には、赤身肉(牛肉、豚肉や羊の肉など)や精製された肉(ホットドッグ、ソーセージ、ハム、ベーコンなど)から摂るタンパク質でなく、ナッツなどの豆類や魚から摂取するほうが、同じ摂取量でも疾患のリスクを下げることができるとわかっています。
来週(12月3日)は、タンパク質と病気(心血管疾患、糖尿病、肥満)との関係性、タンパク質の摂りすぎについてご紹介します。
執筆者:天野方一
2010年に埼玉医科大学卒業後、都内の大学付属病院で初期研修を終了し、腎臓病学や高血圧学の臨床や研究に従事し、抗加齢医学専門医や腎臓内科専門医等の資格を取得。
予防医学やアンチエイジングの重要性を感じ、2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、「食生活や生活習慣等など日常生活を改善することで、身体だけでなく心もハッピーに」をモットーに、予防医学やアンチエイジングに関する研究を行っている。
2018年秋からハーバード大学公衆衛生大学院に留学し、最先端のアンチエイジング及び、?「The relationship between health and happiness(健康と幸福の関係性)」?について研究。
資格:抗加齢医学専門医、腎臓内科専門医、内科学会認定医、日本医師会認定産業医
公衆衛生修士号(Master of Public Health、MPH)
参考文献
1.Halton TL, Willett WC, Liu S, et al. Low-carbohydrate-diet score and the risk of coronary heart disease in women. N Engl J Med. 2006;355:1991-2002.
2.Halton TL, Liu S, Manson JE, Hu FB. Low-carbohydrate-diet score and risk of type 2 diabetes in women. Am J Clin Nutr. 2008;87:339-46.
3.1947~1993年:国民栄養の現状, 1994~2002年:国民栄養調査, 2003年以降:国民健康・栄養調査(厚生省/厚生労働省)
(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html)
4.Pan A, Sun Q, Bernstein AM, Schulze MB, Manson JE, Stampfer MJ, Willett WC, Hu FB. Red meat consumption and mortality: results from 2 prospective cohort studies. Archives of internal medicine. 2012 Apr 9;172(7):555-63
5.Halton TL, Willett WC, Liu S, Manson JE, Albert CM, Rexrode K, Hu FB. Low-carbohydrate-diet score and the risk of coronary heart disease in women. New England Journal of Medicine. 2006 Nov 9;355(19):1991-2002.
6.Pan A, Sun Q, Bernstein AM, Schulze MB, Manson JE, Stampfer MJ, Willett WC, Hu FB. Red meat consumption and mortality: results from 2 prospective cohort studies. Archives of internal medicine. 2012 Apr 9;172(7):555-63.
7.Mozaffarian D, Hao T, Rimm EB, Willett WC, Hu FB. Changes in diet and lifestyle and long-term weight gain in women and men. New England Journal of Medicine. 2011 Jun 23;364(25):2392-404.
8.Devries MC, Sithamparapillai A, Brimble KS, Banfield L, Morton RW, Phillips SM2.Changes in Kidney Function Do Not Differ between Healthy Adults Consuming Higher- Compared with Lower- or Normal-Protein Diets: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Nutr. 2018 Nov 1;148(11):1760-1775.